すみなすものは

映画、文学、人文情報学(デジタルヒューマニティーズ)についての話題あれこれ。時には日経平均ウォッチャーとしての雑感も。

『ラーゲリより愛を込めて』

ラーゲリより愛を込めて』 2023年3月11日、下高井戸シネマにて鑑賞。

見応えについては、邦画としては十二分。お薦めの作品である。

『永遠の0』と雰囲気がよく似ていると感じた。後で知ったことだが、担当したシナリオライターが同じで、林民夫さんによる脚本とのこと。ネタバレを避けながら表現することが難しいが、『ラーゲリ』の〇〇ローグと『0』の〇〇ローグが類似のパターンであり、かつ対照的でもある。そして、『ラーゲリ』の終盤と『0』のそれとを比べると『ラーゲリ』のほうが格段に正当で、圧倒的に素晴らしい。ただし、(これもネタバレを避けながらの表現だが)〇者〇様の訪問シーンはストレート過ぎて先が読めてしまうので、もっとそれぞれの個性を生かした表現であればと思った。「戦争と平和」の対比についても一工夫がほしい。ただし、『0』のラストシーンのような珍奇なやり方ならないほうがましなので、再度、仕上がりを素直に讃えたい。

特にカメラワークは素晴らしかった。絶賛したい、というか、私の好みである。美術については、もっと泥、雪、水、濡れ、撥ねでドロドロに描かれていたらリアリティが増したはず。血についても同様。汗は作品の性質上、さほど必要ないかもしれない。

そして、文字や文章の意義と力を強調しながら、それらを奪われたらどうするかという点、人間が知恵を絞る様子、といった深刻なテーマは観客にきちんと届いたに違いない。

助演男優陣が素晴らしく、その中の一人を主演男優と入れ替えたらどうなるだろうかと想像した。

女優はKHさんかAYさんだったら、と同じく想像、というか夢想。スケジュールが埋まっていたのだろうか。あるいは…

といったところで余韻を味わいながら、余韻をもたせて雑感終了。

最後にもう一つ、原作者の辺見じゅんさん、素晴らしい作品を書き上げてくださったことに心から感謝を申し上げます。